夏の痕

母を待つ
盛りを過ぎた夏の午後
コンクリート塀の上に
麦わら帽子の影が落ちる
虫のようにうごめく
無数の言葉の残骸の
ひとつひとつ
指の腹でつぶす
少女の頃に覚えた
懐かしい
ざらついた痛み

夏の日なたは
わたしの人差し指に
偽物の傷痕を映し出す
あの夏を忘れないでと
訴えかけてくる
額の汗を拭う母
白いガーゼハンカチ
薄荷の匂い
ひんやりとした指さき
今はもうないものをわたしは思う
その優しさがいつまでも
わたしの底に夏を縫い付けている

待ち合わせた人が
わたしの名を呼ぶ
夏が振り向く
わたしの頭上で
さんさんと降り注ぐ日差しは
今日も熱い


2021年3月18日



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